ワンドロワンライまとめ① - 1/4

煉炭ワンドロワンライまとめです。

 

初恋は玉砕のあとに

「すまないが、君の気持ちには応えられない」
そう言って煉獄先生は、俺のほうを振り返ることなく社会科準備室のドアをピシャリと締めた。拒絶という言葉を、こんなにもあからさまに見せつけられるとは思いもしなくて、俺はしばらくの間、廊下に突っ立ったまま泣いていた。
女々しい自分が、とことん嫌になる。
泣いたところで、どうしようもないじゃないか。

煉獄先生は、同級生たちだけでなく上級生たちからも羨望の眼差しを向けられるほど、素敵な先生だ。見た目が派手で、威圧感のある眼差しはしていたけど、歴史の授業に対する熱は誰よりも強かった。それに、誰か困っている人がいれば、それがどんな些細なことでも気にかけてくれる人だったから、自然と生徒たちの心を捉えていったのだろう。
かく言う俺もその一人で、強い憧れの思いを恋心と履き違えて、つい先程「煉獄先生が好きです」と一世一代の告白をして、見事に玉砕したのだ。
目も当てられない、とはまさにこのことだ。
「わぁ、どうしたんだよ炭治郎」
腫れぼったい目で放課後の教室に戻ってきた俺を、友達の善逸は青褪めた顔で待っていてくれた。
煉獄先生に告白するんだ、と、勇よく飛び出して行った無謀者を、彼は決して笑ったりはしなかった。
「伊之助も誘ってさ、マックでも行こうぜ」
人目もある学内での話し合いを避けてくれるその優しさが、今は特に胸に染みた。

「分かってはいたけど、こう、面と向かって言われると、くるものがあるんだな……」
しみじみとそんなことを言いながら、出来たてのハンバーガーを頬張ると、少しくらいは気が紛れそうな気がした。隣では、俺よりもずっとハイペースでハンバーガーを食べている伊之助がいて、向かいでは難しそうな顔をしている善逸が座っている。
「なあ炭治郎……本当に煉獄先生がそう言ったのか?」
「ああ、……間違いはないよ……」
思い返すと、胸がぎゅうっと痛くなる。言葉で言ってもわからないから、ピシャリとドアを閉める行為で、分かりやすく示してくれたのだろう。
でも、あんな風にしなくたって、俺にだって、理解力はあるというのに。
じわりと、また涙が滲み始めた目もとを袖口でぐいと拭って、俺は友人を安心させるために微笑んだ。
「ありがとう、善逸、伊之助。今回のことでしっかり学んだから、……もう煉獄先生のことは諦めるよ」
「何で諦めるんだよ」
善逸の言葉に、咄嗟に言い返すことができなかった。
「先生からは、そんな音はしてなかったぞ、いつも炭治郎のことを思っているような音がしてた、そう簡単に諦めんなよ! 入学式からずっと煉獄先生のこと、好きだったんだろう!」
「そうは言っても……」
面と向かって振られてしまったのに、諦めるより他に方法なんてないじゃないか。善逸はなおも炭治郎らしくないと詰ってきたが、俺が頑なに首を振り続けていると、
「炭治郎がそう言うなら、仕方ないけど……ったく、俺の親友を泣かせるなんてひどい先生だ……」
そう独りごちて、ようやく彼もハンバーガーに口をつけた。伊之助は何も言わず、炭治郎の背を強く叩く。それだけで伝わる気遣いに、再び目もとが熱くなってくるのだった。

翌日も若干瞼の辺りが腫れていたけれど、それでもたかが失恋の一つで欠席することはできない。俺は、どうか煉獄先生に会いませんようにと願いながら、登校した。
「関ヶ原の戦いでは──」
カツカツと、小気味よいチョークの音が走る。俺は机に立てた教科書を盾にして、その声の主からの視線を防御した。会いたくないと言っても、生徒である以上、授業を受けないわけにもいかない。
ああ、何が嬉しくて、失恋相手の声を聞かねばならないのか。
でもやっぱり、とても好きな声だ。
深みがあって、優しさもあって、後ろの席までよく届く声で。あの声で名前を呼ばれたら、さぞや──
「竈門、竈門!」
「ひゃ、ひゃい!」
ピンッと背筋を伸ばした途端、バラバラッと教科書やらペンケースやらが辺りに散って、大騒ぎだ。涙目になって見上げれば、真顔でこちらを見下ろしてくる煉獄先生。
仁王像だ。
「放課後、社会科準備室に来なさい」
まさかまさかの、呼び出しである。今だ失恋の痛みで胸が疼いて仕方がないというのに、煉獄先生はサディストなんだろうか。

ドアをノックする手が震える。昨日はここで、この場所で思いの丈をぶち撒けて、敗戦したのだ。それなのに、その傷も癒えぬまま、彼のもとへ行く。
拷問じゃないだろうか、これは。
「し、失礼します!」
恐る恐る飛び込んだ彼の根城は、ほろ苦いコーヒーの香りで満ちていた。きょとんとした様子で辺りを見回す俺に、煉獄先生は人の良さそうな笑みを浮かべて手招きをしてきた。
「よかったらコーヒーでも飲むといい、コーヒーが苦手ならココアもあるぞ、お菓子だってある、バウムクーヘンだ、うまいぞ」
「は、はあ……」
俺は煉獄先生のお叱りの言葉を貰いに来たのではなかっただろうか。狐につままれた心地で突っ立っている俺を、煉獄先生はぐいぐいとソファに座らせて、ココアだ、バウムクーヘンだ、苦手か、それならチョコレートもあるぞ、待っていなさいと、デスクの引き出しを引っ掻き回し始めた。
「あ、あの……俺、どうして呼ばれたんですか」
あれもこれもと両腕に押し付けられて、仕方なくバウムクーヘンを齧り付きながら、問いかけてみた。
「……君、泣いていただろう」
ギクリと顔を強張らせる俺に、煉獄先生は眉尻を下げる。
「もっとうまい言い方をすればよかったと、あれから反省していたんだ……悪かった、俺も動揺していたとは言え、酷い態度をとった」
すまなかったと、今更頭を下げられても、あの強い拒絶の態度に、言い訳なんて欲しくないのだ。
あんなの、泣いたっておかしくない。
馬鹿、馬鹿、煉獄先生の馬鹿。
ぼろぼろと泣きだしてしまった俺に、煉獄先生は慌てふためいて、それから、俺の両手を取った。バウムクーヘンは、ころんと落ちて、膝の上に着地した。
「竈門、君の気持ちに応えられないのは、事実だ。君は生徒で、俺は教師だからだ」
涙が膝を濡らす。
「でも、今だけだ。今だけは、君の気持ちに応えることはできない、……俺の言いたいことはわかるだろうか……」
俺は泣きながら、緩く首を振った。
先生の言ってること、ちっとも理解できない。
「君が卒業するまで、待っていてほしい……それまで、君の気持ちが変わらなければ……」
そう言って微笑んだ人と繋いだ指先は、想像以上に熱く萌え滾っていた。その熱に当てられて、漸く彼の言わんとすることがわかって、俺は再び目が腫れるまで泣き続けた。
俺の帰りを、下駄箱で待ってくれていた善逸に、もう心配いらないね、と笑われるくらいには。

 

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