百年の恋が冷めても、それでも俺は君に恋をする - 3/8

3.君に恋をしなければ

この鳩尾を駆け抜ける痛みは、この世に生まれ落ちたことを否定するための罰なのだろうかと思うことがある。この痛みと共に流れ込んできた前世という、遠い世界の己の生き様や信念は、今の自分にとっては異質なものでしかないから。前世の俺が、同じように生きることを望むというのなら、あの頃のように生きることのできない自分は、不必要な存在なのかもしれない。そう思う程に、自分は随分と捻くれた男に成り下がってしまった。
母や父から与えられる惜しみない愛情を、ただひたすら享受できればよかったのに、昔の自分に戻ろうと藻掻いている自分がいる。けれど無理なのだ、今の世は平和で、何ものにも脅かされることもなく、弟も煉獄家を守るため自身の力に見合わない鍛錬に励まなくても構わず、好きな道を選べるのだから。
自分も進みたい道へ歩んでいいのだ、だけれども、己を律し続けたあの頃の自分を振り返ると、本当にその道でいいのだろうかと思うのだ。
この痛みがそう訴えているのだ。

「検査結果に問題はありませんね」
かかりつけ医は、険しい顔のままパソコンの画面を睨んでいた。ありとあらゆる検査を行っても、幼少から続く腹痛の原因を探ることはできないままだ。様々な病院を渡り歩いてきて、今は総合病院で対処療法を行っているに過ぎない。
「また痛みが強くなったそうですが、心理的要因も考えられます。何か変わったことはありませんか」
「いえ……」
応えながら思い浮かぶのは、炭治郎の顔だ。準備室で馬鹿みたいに泣いてしまった俺に驚いた彼は、逃げるように一礼して部屋を去ってしまった。その日の夜から、腕を捩じ込まれるような腹の痛みに喘いでいる。特に痛みが激しくなるのは、夜明け前だ。遠い前世で起こった出来事がどうして、今になってこの身を襲うのだ。
炭治郎は、と目を伏せる。
炭治郎はきっと、みっともなく泣いた俺が怖くなったのだろう。尊敬する教師に目の前で泣かれたのだから。しかし、もしその教師に恋心を抱かれているなどと知ったら、彼は──。
ああ、前世で自分を愛してくれた彼であったのなら。
「引き続き様子をみていきましょう」
何度となく聞いてきた医者の言葉に頷き、腹のあたりにそっと手をあてた。日が高い日中には、暴れ狂うような痛みが訪れることはほとんど無いはずなのに。
父は再三、お館様と縁のある医者に診てもらえと言っていたが、今生でも産屋敷一族に迷惑をかけたくなくて、その提案を拒絶している。
そもそも、今のお館様が、自分の知るお館様だとは言い切れない。
父は面識があるようだが、自分は会ったことすらないのだ。父を信じていないわけではないが、今のお館様に会うということは、こんなにもみっともない自分を曝け出すことに繋がる。とてもじゃないが、胸を張ってお館様に会える気がしないのだ。
あの誇り高き志を持った男、炎柱──煉獄杏寿郎に俺は戻れないのだから。

腹痛が酷いからといって、おいそれと休むことのできない職業だ。学校側の配慮で数日ほどの有給を頂いたけれど、何日も休むわけにもいかない。週明けには出勤して、この新年度の忙しい時期を乗り越えなくてはいけない。
自室の文机の上で不慣れなパソコンに四苦八苦していると、襖の向こうから「杏寿郎、入りますよ」と母の静かな声がした。はいと返事をすると、母はそっと襖を引いては、盆に載せた湯呑みと器に盛った小さなゼリーを持ってきて、机の上に置いてくれた。ゼリーはりんご味だ、小さい頃から腹痛を訴えるとこのゼリーを出してくれるのだ。市販品ではない、彼女の手作りだ。
母が家庭科の教師として在籍していた頃から、彼女の作る料理はいつだって俺たち家族の心を癒やしてくれている。
家でも和服姿の彼女は、姿勢よく座り直すと「無理をしてはいけませんよ」と、俺を真っ直ぐ見据えながら言った。
「根を詰めるのもほどほどにしなさい」
朝からずっとパソコンの前に座って眉間に皺を寄せている俺に、目くじらを立てているようだった。気がつけば昼もとうに過ぎてしまっている。
「ありがとうございます、でも、あと少しで終わりますので……」
「杏寿郎」
今生でも母の面差しは凛としている。そして父が彼女の言葉に逆らえないこともわかるほどに、その威圧感は前世の比ではない。それもそのはずで、彼女は今、死の病に侵されることがないからだ。その兆しすらない、健康そのもの。この煉獄家に嫁いだ女性として、母として、日々背筋を伸ばして生きてくれている。それだけで、母が元気でいてくれるだけで、嬉しいことはない。
俺は肩を竦めて「わかりました」と、パソコンを閉じた。母の言うことに逆らえないのは、俺も同じだ。彼女と共に生きていられる時間が長ければ長いほどに、幸せが伸びていくような気がするから。
「杏寿郎、ゼリーを食べてからでいいので、散歩のついでとしてお使いを頼まれてくれますか。少し風に当たるのも、身体に良いですよ」
母の目もとが柔らかく撓んだ。
「かまどパンの食パンを買いに行ってほしいのです。夕方、町内会の集まりがあって買いに行けないので、杏寿郎にお願いしたいのです、もちろん、お腹が痛むのであれば休んでもらって構わないのですが……」
「いいですよ、ちょうど休憩を入れようと思っていたところです」
母の頼みを断るような勿体ないことはしたくない。俺は聞き慣れない『かまどパン』という店の場所を教えてもらい、夕方のおつかいに繰り出すことにした。どうせ、あと二日ばかりで学校に行くのだから、痛いなどとは言っていられない。

かまどパンと聞いて、まさかそんな都合のいいことはないだろうと思っていた。『かまど』は『竈』のことくらいにしか思えず、それがまさか『竈門』を意味しているとは考えられなかった。
こじんまりとしたパン屋の中へ、見慣れた制服姿の小さな背中が少女を伴って入っていく様子を見てしまうまでは。
雑踏の中、俺は凍りついたように立ち尽くしてしまった。
大通りに面した住宅街の一角に、そのパン屋はあった。硝子張りの大きな窓から見える、あたたかみのある店内には、たくさんのパンが並べられている。窓際にはイートインスペースでもあるのだろう、ふたつほどの椅子が並べられており、そこに少女が腰掛ける様子が見て取れた。
蝶の髪飾りをつけた少女が、栗花落カナヲであることは遠目でもよくわかった。彼女はぼんやりと外を眺めているようだったが、誰かに声をかけられたのか、ふいに窓に背を向けた。彼女の前に、少年の姿がある。
ああ、炭治郎だ。
炭治郎が栗花落カナヲに声をかけて、何かを手渡している。二人は仲睦まじく会話をしていて、炭治郎の顔に笑みが灯る。
ひりつくような痛みが腹部を走る。
ああどうして。こんな光景が見たくて外に出てきたわけでもないのに──。
二人の仲の良さを見ることに堪えきれず、俺は踵を返した。彼らの幸せな逢瀬を盗み見ることで、現実を突きつけられる気がしたからだ。
そんな時だった。けたたましくドアベルが鳴って「煉獄先生!」と炭治郎の声が、俺を呼び止めたのだ。

「竈門……」
幻聴だろうかと思って振り返れば、ハッハッと息を切らした炭治郎が立っていた。よほど慌てたのだろう、髪の毛が乱れている。そんな彼が、言葉を選ぶように「もう、お加減はよろしいのですか」と、声をかけてきた。
意外だった。恋人との逢瀬の最中に、俺を見つけて飛び出してくるなんて思わなかったからだ。
「……ああ、散歩できるくらいには。週明けからは学校に行ける、心配をかけたな」
そう言って笑ってみせる俺に、炭治郎は怪訝そうな表情を浮かべた。そうだった、君は感情の機微に敏感だった。どうしたものかと口をもごもごさせていると、炭治郎は意外なことを口にした。
「先生、よかったらうちに……あの、うちはパン屋なんですけど、イートインもありますし、少し休んでいかれませんか」
「いや……気遣いは嬉しいが、……すまない……」
そんな気遣いは、店内にいる彼女だけにすればいい。なんてことは言えずに首を振ると、炭治郎はハッとした様子でこう捲し立てた。
「あのっ、先生少し待ってていただけますか! すぐに戻ってきますから、渡したいものがあるんです!」
言うが早いか、彼はすぐさま店内へと舞い戻ってしまった。俺は、鳩が豆鉄砲を食らったみたいに、目を丸くすることしかできない。
突拍子もない行動についていけない。
今生での炭治郎もまた、こちらの想像を遥かに超えてしまう存在なのかもしれない。そんなことをつらつらと考えていると、また勢い良くドアが開いて、炭治郎が飛び出してきた。
先ほどよりもずっと息が上がっている彼は、有無を言わさずこの手に小さな紙袋を押し付けてきた。ひやりとした紙袋と、ほんの少しだけ触れた彼のあたたかい指先に、俺は惚けてばかりだ。
「これ、俺が作ったさつまいもプディングなんです! お口に合うかどうかわかりませんが、よかったら食べてみてください、まだ試作品なんですけど、煉獄先生にも食べて欲しくて……!」
言ったそばから、自分でも混乱しているのか顔を真っ赤にしている炭治郎を見下ろす。意図は読み取れない、けれど、そこに裏があるような気もしなかった。彼の優しさが真っ直ぐ、胸に染みる。俺は柔らかく微笑みを浮かべ、紙袋をそっと胸に抱いた。
「ありがとう、大切に食べるよ」
彼の優しさは、今生でも変わらぬらしい。人を思い、労ることのできる彼を誇らしく思う。例えこれが、教師である己を心配してのことであったとしても、この小さな幸せを抱いて生きていこう。
そうだ、彼が俺のことを好きでいなくてもいい。
俺のことを好きでいなくてもいいんだ、ただ、君の笑う顔をほんの少しの間でいいから、見せてもらえたら、それが俺の幸せになるはずなんだ。

彼が手渡してくれたプディングの味は絶妙で、自室にこっそり持ち込んだその小瓶を手放すことができなかったほどだった。
前世の炭治郎は料理上手だったが、今生の炭治郎もそうなのだろうか。思えば、あの頃の炭治郎は西洋料理への興味が強く、滋養がある卵料理をよく作ってくれていた。さすがに味覚の記憶まで今生に持ち込めなかったけれど、きっと、あの頃の彼が作ってくれた料理もまた、このような優しさにあふれたものだったのだろう。
『杏寿郎さん』
大好きなあの子の声が聴こえた気がして、誰もいないことをいいことに、俺は涙で頬を濡らした。前世の自分が見たらみっともないと叱咤するほど、俺は随分人らしくなったようだ。

週明けの学校で生徒たちは、「先生やっと来たの」と揶揄うような言葉であたたかく迎えてくれた。新学期早々に病欠した教師だ、どの生徒も俺を気遣ってくれた。中でも意外だったのは、炭治郎だ。先日プディングを手渡してくれた時もそうだが、妙に俺に優しかった。教室でちょっとでもよろめけば「どうしました!」と、誰よりも早くすっ飛んでくるくらいには。
きっと、腹痛に歪んだ顔や、涙した俺のことを病弱な先生だと思い込んでしまっているのだろう。
ああ、君はどこまでも優しい男だ。
前世の俺との落差を知ったら、どんな顔を──。
そこまで考えて、小さく息を吐く。そんな夢物語のようなことは、小説や映画の世界の話しだ。都合の良い展開が、これからも自分に訪れるはずはない。他の生徒たちと同じで、病欠した教師を心配しているに過ぎないのだ。
「来週、小テストを行う、きちんと復習しておくように」
教壇でそう言い放てば、生徒たちは「ええー」とわかりやすく落胆しているようだった。その子供らしい様子に微笑ましく思いつつ、騒がしい教室を後にしようとした俺の耳に、炭治郎と呼ぶ声が届いた。
休憩時間の雑多な話し声に混じる男子生徒の楽しそうな声が、炭治郎の肩を軽く叩いていた。
「炭治郎は彼女とラブラブでうらやましいよなあ」
「そうそう、この間なんて『好きよ』『俺も好き』なーんて、人が見ている前で堂々と好き合っていたよな」
「何を言っているんだ、俺には彼女なんていないぞ」
炭治郎はきょとんとした顔をしていたが、男子生徒たちは「またまた〜」と笑い合っていた。
「とぼけんなよ竈門〜栗花落ちゃんと放課後よく一緒にいるの、俺ら見てんだからな」
「抜け駆けずるいぞ〜!」
「だから、一体何の話しなんだ、俺に彼女なんて──」
ふいに炭治郎の目が俺を捉えたような気がして、急ぎ教室を後にした。ふざけ合う子供たちの声が反響し、膨らむように広がっていく。
掻き消してくれ、全て、全てを。
その事実から目を逸らし続けていたいんだ。

その日の夕方、そっと準備室のドアを開いたのは件の炭治郎だった。
意外な訪問客に腰を浮かしていると、彼は見覚えのある紙袋を携えて、申し訳なさそうに微笑んだ。
「この間は妙なものを渡してすみません、お口に合わなかったですよね……お詫びにうちのパンを持ってきました」
生徒から私的な物は受け取れないなんて言葉を飲み込んで、俺は泣きたくなるような気持ちで彼を迎え入れた。昼間のことは一旦、頭の隅に追いやってみる。
大人だから、頭の切り替えだけは早いのだ。
準備室の奥に備え付けたデスクから身を離し、入り口付近で腰を低くしている彼へ、パイプ椅子を差し出した。
「あ、あの……」
きょとんとしている炭治郎の目線を追いかけると、パイプ椅子は薄汚れている。うっすらと埃の積もっていたそれに気づき、慌ててハンカチで座面を拭く俺に、炭治郎は申し訳なさそうに「ありがとうございます」と零した。
「先生、どうぞお構いなく。俺は、パンを届けに来ただけなので……」
「いや、この間の礼もある、汚いところで申し訳ないが少し待っていてくれ、お茶でもご馳走しよう」
「いえ、そんな! いいですから!」
赤い顔で首を振る彼に「おいしかったよ」と声をかけると、彼は少しだけ目を大きくさせて、それから年相応にはにかんでくれた。
ああ、その笑顔が見られるだけでも、幸せなんだ。
「さつまいもの風味がして、まろやかで舌触りが良かった。君は、料理が得意なんだな」
小さなシンクでお茶の用意を始めた頑固者の俺を見て、炭治郎は身を小さくさせながらパイプ椅子に腰掛けた。ギシリと軋む音に、今度は新品を用意しておこうかと考えつき、その幼稚な考えに苦笑した。
次なんて、あるはずないだろう。
「料理が得意と言いますか、……うちはパン屋なので……色々と作ってみているんです」
紙袋を膝の上に載せて、炭治郎は照れながら足もとに視線を落とした。盗み見た彼の指先は美しいけれど、ところどころに絆創膏を巻いていた。
「パン屋の息子なのに、パンはうまくいかないんです……今朝も作ってきたんですけど、俺の生地だけ発酵が進まなくて。……あ、これは父の作ったパンなので! 味は保証します!」
そう言ってずいと差し出された紙袋を、迷いながら受け取った。香ばしい匂いが、ふわりと香る。
「ありがとう……もらってばかりで申し訳ないな、男の淹れるお茶だが……よかったら」
代わりとばかりに差し出した湯呑みを受け取る炭治郎の顔に、少しだけ陰が差したような気もした。でもそれはほんの一瞬のことで、すぐさま彼は太陽のように笑ってくれた。
「お茶美味しいです、こちらこそありがとうございます! プディング……さつまいものプディングを作るのは俺の趣味みたいなもので、先生に喜んでもらえたのなら頑張ってきたかいがありました」
「どのくらい頑張ってきたんだ」
紙袋の中は三日月型のクロワッサンだ。そのひとつを取り出して、目線で彼に礼を伝えつつ頬張ってみる。ああ、深いバターのコクとさくっとした食感が心地良い。素晴らしいパンだ。
前世では、炭治郎は父を早くに亡くしたと話していた。そんな人が今、この世でこんなにも美味しいパンを作ってくれている。きっと自分の母のように、元気に今を生きてくれているのだろう。だからこそ君の顔には何の憂いもなくて──。
「十歳の頃から、何かに取り憑かれたみたいに」
そう零す炭治郎の、翳りのある表情に手が止まる。
「作らなくちゃ、作らなくちゃって思って手が止まらないんです。さつまいものプディングだけじゃないんです、さつまいものお菓子だったら何でも……作ってみたくなっちゃって、これを作ってあげないとって……焦ったような気分で。これを早く『あの人』に食べさせたい……そんな声が、聴こえるような気がして……」
彼の赤い瞳が揺れているように見えて、胸がちくりと痛む。
炭治郎には『食べさせてあげたい人』がいる。
あのプディングも、他のお菓子も自分ではない誰かのために。
「そうか……」
なんと返したらよいのか、わからない。彼は無意識に作っているのだと語ってくれたが、なんとなく俺には見当がついてしまった。あのパン屋で『彼女』にも、同じプディングを手渡していただろう。あの時の、ほんの少しだけ垣間見えた君の顔は、真剣さが滲んでいた。わかるよ、そのくらい。
君は彼女のことが──。
「案外とそばにいるんじゃないか、竈門がお菓子を作ってあげたい相手は」
「そうだといいんですけど……」
炭治郎は、力無く笑う。無自覚の恋心が、彼を突き動かしているのだろう。
百年ぶりの恋だ、燃え上がらないはずがない。
そんな同僚の呟きを思い出しては、目線が落ちていく。前世では俺に惜しみない愛情をくれた君だけれど、きっと心の中では、彼女に惹かれていたはずだ。俺が無遠慮に縛り付けてしまっていたから、二人は結ばれることがなかったのだ。
──俺さえいなければ。
末恐ろしい感情に身震いする。今生でも彼に恋をしている自分ほど、愚かしいものはない。彼には彼の、彼らしい人生が待っているのだから。
君に自覚がないと言うのなら、気付かせてあげよう。君が彼女と結ばれるべきだということを。
「竈門、きちんとプディングのお礼がしたい」
「え、いや、いいですよお礼なんて。むしろ、試作品を食べさせてしまったのですから……今度はもっとちゃんとした──」
「君は苺は好きか?」
「え、あ、はい……好きですけど……」
急な話題に目を丸くする彼に、俺はここぞとばかりに畳み掛ける。初夏が近いが、まだ季節としては間に合うはずだから。
「いちご狩りに行かないか、君と……そうだな、君の彼女とも一緒に」
「彼女?」
「ほら君の彼女だよ、栗花落カナヲくんだ」
「カナヲが……あれ、先生ってカナヲのこと知っていましたっけ」
その問いには、濁すように微笑むしかない。大丈夫だ、君たちの恋を邪魔したりはしないから。
「俺が奢りたいんだ、とはいえ教師である以上できることはいちご狩りに連れて行ってあげることくらいだ、ぜひ君と栗花落くんと一緒にいちご狩りをしないか」
「なんだか申し訳ない気がしますが……先生がそう言うなら、カナヲにも聞いてみます」
「うん、ぜひそうしてみてくれ」
君と栗花落カナヲとの仲を取り持たせてほしい。二人が仲睦まじく結ばれてくれたら、きっとこんなみっともない恋心を捨てられるだろうから。
だから、君に恋をしなければよかったなどと、思いたくないんだ。

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